「撤退の農村計画」 と 種火。
診療所5年目の今年は元気な患者さんも歳を重ねたと感じる機会が多くありました。
今後この地域がどうなるか漠然とした不安の中で、地域医療にかかわる先輩よりこんな本もあると聞いて読んでみました。
「撤退の農村計画」林直樹・齋藤晋編著(2010) 学芸出版社
過疎化高齢化の中すべてを守ることはできない。しかしこのままでは消滅が待つ。
その中で大切なものを守るため引くべき所は少し引いて考える方法が述べられています。敗北ではなく守るために引く、地域のいろいろな問題が小節ごと短くわかりやすくまとめられており、専門外の分野についても読みやすいと思いました。
診療所ができることは何か、選ぶべき道は何か考えてみました。
医療圏の問題はいまだ混迷状況にあり進む方向すらわかりません。後方病院が良くなったとしてもさらに奥にあるこの地域の医療問題が解決するわけではありません。この地域で車に乗れなくなれば家で老いて死ぬことがいかに難しいことか。老いてもこの町で家で暮らすにはいま自分たちは何をしたらいいのかいいのでしょうか。
さらに集約化や均一化という形で医療をとりまく状況は悪くなっています。守るための撤退と考え取り組んでいる人もいらっしゃいますが、全体がそういう旗印のもと動いていないためにこちらからはこの本が述べるような積極的に守るための撤退ではなく、効率化や均一化という仮面をつけた消極的なサービス悪化の部分ばかり目に付いてしまいます。川の流れが変われば人の流れも変わるわけで、その中で均一化重視という考えを持ち込むことがそもそも無理があったように思います。
今年は何人かの方の最期に関わりましたが、その中でいくつも教えられたことがあります。その一つが家で家族とともに暮らし最期を迎える命のバトンの受け渡しがとても貴重なものであることでした。今は街よりも田舎の方が家で死ぬ事は難しいと思いますが、昔は多くの人が家で地域で死ぬという最期の大仕事を務め上げられてきました。自分の家で最期を迎えられることは過疎化の進むこの地域での貴重な文化の種火だと思いました。良い意味でも悲しい意味でも撤退は続くのでしょうが、この種火まで持っていってしまうのでしょうか。苦しい状況のなかいつまでできるかわかりませんが、この村もこの地域全体も次につなげていくためにも、この種火をささやかにささやかに守り続けていけたらいいなと思った次第です。
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