119番と診療所

先週のロコモ教室の話の中で、参加者より救急隊に質問がありました。
「急病のときまず119番をするのか、それとも診療所に電話をするのか、どちらがいいのでしょうか。」

街に住んでいる人たちがこの質問を聞くと、そんなの119番に決まっていると思うでしょう。
実際にこの質問に救急隊はまず119番に連絡してくださいと答えました。私も119番が正解だと思います。しかし現実は必ずしもそうではないのです。

新城市ホームページの中に新城消防の消防統計(消防白書・消防年報)が載っています。白書には地区別の数字はないので22年度の年報が地区別の件数をあらわす最新号になりますが、平成21年中の津具地区(東部・西部合わせて)での救急・事故件数は69件とあります。こちら診療所の統計では21年度の搬送例が25件(診療所からの転院搬送、往診先からの搬送依頼含む)ですから、1/3以上のケースは診療所が関わっていることになります。交通事故などの案件をのぞけばさらに診療所が関わる割合は高くなります。

津具から後方病院までは一番近い病院で山道を40分、二次病院まで1時間、三次病院まで2時間を要します。搬送時間持たない患者さんは入院しても助かる体力はないというのは事実だと思います。患者さんが入院治療が必要かどうかは、状況を知らせる第一報の電話でだいたい見当がつきます。前述の搬送時間を考えたとき、往診し搬送中命綱となる可能な応急処置(点滴や呼吸確保など)を施し、しかるべき病院(できれば以前より継続的に見ていただいている病院に)連絡をとり、必要なら救急車に添乗して病院まで運ぶメリットと、往診までの時間や搬送の準備などの時間のロスのデメリットを考えて、一例一例対応しているのが現状です。今目の前で倒れた、往診に行くにも10分~15分かかってしまうなどの場合は119番も同時に呼ぶように伝えますし、昨日から調子が悪くてだんだんしんどくなってきたなどの場合は、先に往診し後は運ぶだけの状態にしてから119番に連絡することが多かったように思います。

お互いの役割を尊重し、現場同士助け合いながら患者搬送を行う、明文化こそされていませんが、志を同じくするものとして救急隊とはいい関係で来れたのではないかと思います。頑張って地域を支えてくださる救急隊には心から感謝いたします。診療所も助けられています。ありがとうございます。

15分の搬送時間が5分になれば助かる人は劇的に増えるかもしれませんが、1時間の搬送時間が50分になってもそれほど大きな変化はないでしょう。いかんせん後方病院より遠くはなれた地域、搬送時間の短縮だけでなく、人的資源の確保・知識技術の研鑽のほうが今は大きな効果があると思います。地域の中での人と人とのつながりをしっかりしておくことや、住民の人たちに救命救急の技術を学んでいただくことも大切なことです。
地域の皆さんにはぜひとも救急隊という社会資源を暖かく支えていただいて、地域のために最大限能力を発揮できるよう、その役割について普段から知っておいていただけたらと思うのです。


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この記事へのコメント
住民対象の救命講習(心肺蘇生法)に出たことがあります。ここ2年ほど出ていないのでまずいなあと思って読んでいます。
人体模型を使っての実習でも何度か練習しないと適切にできません。同じように119番などへの連絡の仕方もよくミスがでます。何回も受講することが大事なことは分かってはいるのですが・・・です。
次の研修は出ようと思っています。
Posted by saijikisitarasaijikisitara at 2012年06月30日 10:22
救急車も来るのが当たり前、というのが、実は多くの人が尽くして組み上げられているというものだということを、この地域の人には知ってもらいたいです。最寄の救急車が出動していれば、隣の消防署から出動するしかありませんが、どうしてもこの地域では20分以上のロスになってしまいます。誰も望んでいるわけではなく、この地域でできる限界なのです。限られた人数で消防も頑張っています。
だからこそ、地域の人には知識技術をたかめたり、近くの人たちとのつながりを深めたり、自分自身の力を高める必要があり、町の人以上に努力しなければいけないのだと思います。
Posted by つぐしんつぐしん at 2012年06月30日 21:52
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